歴史からわかるアクティブラーニング推進の問題点

アクティブラーニングとは

2020年から始まった教育改革。

新しい学習指導要領案で当初から注目を集めた「アクティブラーニング」という概念があります。

そのまま訳せば「積極的に学ぶ」ということですが、何をすればよいのでしょうか。

 

途中から学習指導要領改定案における記載の仕方が「主体的・対話的な深い学び」と表現が変わっていますが、

アクティブラーニングの方が使いやすいため、ここではアクティブラーニングと呼びます。

 

変更の原因は、定義が曖昧な外来語は、法令に使用するにあたり適当ではないという理由のようですが、

いずれにせよ、この「アクティブラーニング」の概念が、今後重要になってくることは確かです。

アクティブラーニングのポイントは、以下の3点です。

 

①自分から学ぶことに関心を持つこと

②教師の一方的な講義形式の授業ではなく、教師、生徒が相互に対話、協働して理解を深めていくこと

③ただ知っていることより、学んだことを関連付けて考え、どう問題解決に結びつけていくかを重視すること

 

これらにより、答えが1つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力、判断力、表現力の能力を養成することが求められています。

ノウハウが無い日本

上記のポイントを考えただけでも、実際の運営は極めて難しそうです。

価値を置くポイントは、今までの「知識詰め込み型」から変わります。

一方で、知識として覚えなければならないことが大幅に少なくなるわけではありません。

 

覚えることも多く、さらに、教師、生徒の相互的な対話も必要。

どう時間を配分するのか、手探りで進めていくことになりそうです。

誰も、ノウハウを持っていない状態からのスタートです。

時間は相当にかかることが予想されます。

 

また、親世代もその親世代も、「受け身の教育」の中で育ってきた世代ということも問題です。

教師の指導ノウハウの問題もさることながら、親が指示待ち型で、周りと同じように生きていけばよいという考え方の人が多いのが現状でしょう。

この考え方が、阻害要因となることは十分考えられます。

 

考え方(=価値観)は、そう簡単に変わることはありません。

子供が、主体的に学び考えたことに対して親がどう反応するかで、アクティブラーニングが深化するかが左右されるでしょう。

 

子は親の背中を見て育つものです。

そのため、もし、親世代が無気力、無関心、他力本願で受け身な場合、主体的な子供が育つことは難しいと言わざるをえません。

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教育改革における教師の役割

日本の教育の歴史

アクティブラーニングは過去にない試みであり、長年日本で重要視されてきた価値観との違いは明らかです。

過去にないと書きましたが、今までの日本の教育方法の歴史を振り返ると、意外にも子供の自由な発想や、考える力、個性を重視する教育手法も、発案されていたことがわかります。

しかし、時代の背景も関係し、すぐに衰退していってしまった歴史があります。

教育の歴史を簡単に振り返ります。

 

①江戸時代

そもそも集団で行われる教育手法自体、世界的に見ても一般的になったのは18世紀後半からです。

日本では、江戸時代にあたりますが、江戸時代の代表的な庶民の教育機関は「寺子屋」でした。

 

集団を前提とした一斉教育ではなく、個別指導が中心でした。

教える内容は、生活に直結する能力である「読み・書き・そろばん(計算)」です。

武士の教育機関としては、藩校が設けられ、支配層としての道徳、儒学が中心に教えられました。

 

②明治時代

明治時代に入って、文部省が設置され、「学制」が1872年に制定されます。

そこから、集団教育が始まり、近代的な科学も教えられるようになりました。

授業風景も、生徒が椅子に座って、教師が黒板に板書するというスタイルを外国から学び、取り入れられました。

1889年に大日本帝国憲法が制定、

翌1890年の教育勅語により、「天皇のもとに国民の精神と道徳を統一する」という基本理念が完成しました。

 

しかし、時代背景を考えると致し方ないことですが、当時の日本は列強の脅威にさらされる状況にあり、国家主義的な考え方が大勢を占めるようになっていきました。

森有礼を中心とした教育改革により、国家のための「忠君愛国教育」が行われるようになりました。

 

特に師範学校では、兵隊体操や、祝日儀式、宿舎制を導入し、服装や態度を管理する、まさに軍隊化が進んでいきました。

 

③大正時代~戦前

大正時代に入ると、明治期以降の画一的な教育手法に対する不満が出るようになりました。

新しい自由な教育を求め、個性や自主性を尊重する教育を模索する人たちが現れました。

 

独自に外国から情報を得ながら、画一的な軍隊教育から脱却しようと、私立学校の設立が盛んになりました。

例えば、及川平治氏の教育理論は、まさにアクティブラーニングにつながる考え方です。

 

生徒一人ひとりをしっかり見て、違いや個性、習熟度などに応じて、臨機応変に一時的なグループを作ります。

そこで、それぞれの状況にあわせて指導を行うという分団式教育です。

生活に即した題材を用いることで、子供の興味関心を刺激する「生活単元」も特徴的です。

子供が自分の人生を生きていくために必要な力を、生活教育によって身につけることを目的とした考え方です。

 

しかし、戦争に向かう歴史の中で、間もなく衰退していきました。

戦争が本格的になると、国家総動員法の成立により、学校教育も戦争中心になっていったのは、多くの人が知っているところだと思います。

 

④戦後

アメリカGHQの間接統治のもと、教育改革が行われました。

戦時中の国家主義的な教育は終了し、個人の権利としての教育に変わっていきます。

 

ここでも、前述した生活単元のような学習方法が一時流行しましたが、これも間もなく衰退することになります。

戦後復興から高度経済成長期が到来し、モノをいかに大量に効率的に作るかが重視される時代に入ったからです。

 

画一的で、指示に対して従順に対応することができる「平均的」な人間が必要とされました。

大学入試も学力一辺倒となり、知識偏重型の詰め込み教育が本格的に始まりました。

こうして、自由な発想や個性重視の考え方、生活単元のような経験主義的な方法は衰退していったのでした。

 

その後、「ゆとり教育」により、詰め込み教育が見直される動きもありましたが、大学入試に直結しないことから批判の声が相次ぎ失敗に終わりました。

そして、現在に至るまで、知識偏重型の詰め込み教育による、指示に対して素直に従うことができる人を量産するに至っています。

それでも身につけるべきアクティブラーニング

歴史を振り返ると、いかに日本がアクティブラーニングとは反対の教育手法であったかがわかると思います。

長い間、このような教育手法の歴史が続いたため、切り替えるのは困難が伴います。

 

江戸時代から明治時代の大転換が成立したのは、国家の危機のもと、近代化(西洋化)するという”絶対命題”が共通認識としてあったことが第一に挙げられます。

 

そして第二に、武士の藩校や私塾の一部では、一斉教育など西洋の教育風景に通ずるものがすでにあり武士(士族)出身の人たちが、教鞭を取ることでスムーズに移行できたという背景があります。

 

それに比べると、現代の世の中は、将来に対する危機感(というよりは漠然とした不安)はある程度あるにせよ、

圧倒的にノウハウと価値観醸成が追いついていないという問題があります。

 

しかし、時代の流れを考えれば、今までのような従順な指示待ち人間を量産していては確実に時代遅れになることは目に見えています。

大量生産時代に日本が躍進できたのは、1億総中流の平均的な人が指示を忠実に守り、一糸乱れぬ集団の力が発揮されたからです。

 

これまでの歴史を振り返ると、戦争や、高度経済成長という時代背景が、新しい教育手法が広がることの阻害要因となってきました。

少なくとも現在は、そのような環境にはありません。

新しい教育がようやく時代にマッチし、広められる環境はできています。

 

これからの時代、日本、そして自分自身が衰退しないためにも、

子供はもちろん、現在、そして今後子供を持つ大人の世代も含めて、価値観の転換を迫られているのではないでしょうか。

 

以上、ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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