なぜ今貞観政要なのか?
こんにちは!Jimmyです。
今回は、貞観政要から学ぶリーダーの要諦を紹介します。
1400年経った今でも通ずるリーダーシップの心得が示されています。
貞観政要とは?
貞観政要(じょうがんせいよう)と聞いて、歴史の授業を思い出す人が多いかもしれません。
貞観政要は、中国の唐の時代に国を治めた太宗(李世民)と、その家臣たちによる政治の問答集です。
貞観は太宗が治めていた時代の年号を指します。
この太宗の時代は、長い中国史の中でも、もっとも国内が安定し、平和にまとまった時代と評されています。
つまり、政治的に理想とされた時代であったと言えます。
そんな理想的な政治を実現した太宗の考え方、リーダーの要諦が記されているのが貞観政要ということです。
日本には平安時代前後に伝わり、その後多くのリーダーが貞観政要に学びました。
徳川家康も明治天皇も貞観政要を読んで、影響を受けたと言われています。
太宗の時代から1400年ほど経った現代においても通ずるリーダー論として注目されています。
本当のリーダーがいないと組織は衰退する
一つの企業や組織の中にも、たくさんのリーダーと呼ばれる人が存在します。
しかし、現代は特に、真のリーダーが大変少ない時代です。
不景気で、先が見通しづらく、様々な価値観が交錯する時代であるという背景が影響しているのでしょう。
目の前にあるお金や地位を求めて彷徨い、そしてどこにもたどり着かないような人、
個人としての信念や倫理規範のない人でも、リーダーとして組織に君臨しています。
必然的に世の中は荒れていきます。
資本主義の時代が長くなっています。
ビジネスをいかにうまく回すか、お金を稼ぐかという点において、優れた人は少なくありません。
一方で、儲かれば何でもよい、自分が満たされればそれでよいという考え方の人も目立ちます。
まさに今の日本は、そのような人が多く、結果的に幸福な人が少ないのです。
幸福度ランキングは2019年度は58位でした。
長寿大国、安全大国とは思えないような順位に甘んじているのが現状です。
そんな世の中でも、リーダーがしっかりしている組織はまとまります。
リーダー次第で組織は驚くほど変わります。
今の日本人の多くが学ぶべき要素が貞観政要には詰まっています。
貞観政要の重要部分を紹介&解説
ここからは、貞観政要に示されている問答集の中から、学ぶべきポイントを抽出して、
書き下し文を紹介しながらリーダーの要諦を解説していきます。
大変多くの問答がありますが、それらは互いに関係し合っていますので、重要な要素を以下に大別してみました。
何をするにも率先垂範が基本!
もし天下を安んぜんとせば必ず先ずその身を正すべし。
いまだ身正しくして影曲がり、上理(おさ)まりて下乱るる者はあらず。(君道篇)
訳
天下の安泰を目指すなら、先ずは自分の身を正すこと。
まっすぐ立っているのに影が曲がったり、上が正しい行いをしているのに下が乱れるようなことはない。
今も昔も、口だけのリーダーに人はついてきません。
部下に行動を変えさせようと思ったら、自分の行動で示す必要があります。
このことは貞観政要の中で、太宗も強く認識し、強調しています。
質素倹約を自ら心がけ、欲望を敵として戒めることを忘れませんでした。
トップが欲望を断ち切らなければ、すぐに国は傾くということを太宗は指摘しています。
太宗の時代が繁栄したのは、大前提にこの率先垂範の心がけがあったからです。
しかし、現代のリーダーの多くはどうでしょう。
部下には経費削減を徹底させながら、自分は経費や会社の所有物を存分に使っているリーダーがいませんか?
部下に激務を課して、成長のためだと言っておきながら、自分は楽をしているようなリーダーはいませんか?
率先垂範は、リーダーとしての大前提と言えます。
社員の幸福を自分ごとのように考える
百姓を損じてその身に奉ずるは、なお脛(はぎ)を割きてもって腹に啖(くら)わすがごとし。
腹飽きて身斃(たお)る。(君道篇)
訳
人民に苦しい思いをさせて、自分が良い思いをするのは、自分の足の肉を切って、自分で食べているようなもの。
満腹になったときには、もはや身はボロボロである。
人民と君主は、同じ運命を共にしているということです。
人民から搾取しても、自分に必ず返ってきます。
同じように、リーダーと社員も、ある意味一心同体の立場にあります。
一生懸命働いても、何の評価や還元もなく、上司や社長だけがいい思いをしていれば、社員はすぐに働く気を失くします。
それなのに、実際には、部下や社員をただの駒としか考えていないようなリーダーがどれほど多いでしょうか。
自分も社員(部下)もどちらも大切にして豊かになるという意識を忘れないことが肝要です。
社員を育てて、任せる
それ国を治むるは、なお樹を栽うるがごとし。本根、揺かざれば、則ち枝葉茂栄す。(政体篇)
訳
国を治めるのは、木を植えるようなものである。幹や根がしっかりしていれば、枝葉も成長する。
貞観政要の中で太宗は、政治をするのは、木を植えるようなものだと話しています。
しっかりした幹や根を作ることは幹部を育てることであり、そこがしっかりすれば、末端である枝や葉も生い茂るようになります。
自分一人で支えなくても、育てた幹部(根や幹)がしっかり支えてくれます。
一人で全ての木を支えることなどできません。
自分の責任になるのを恐れて、部下に任せることができない管理職は少なくありません。
また、育てる気持ちや余裕が全く無いような人も多いようです。
とにかく自分のために部下を働かせているようなリーダーでは、組織の土台を支えることは到底できません。
情報量が爆発的に増え、複雑化する現代においては、より必要とされる考え方であると言えます。
広く意見を求める、意見を言いやすい環境を作る
君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり。その暗き所以の者は、偏信すればなり。(君道篇)
訳
明君である所以は、広く家臣の意見を聞くからであり、愚君である所以は、偏った意見しか信じないからである。
貞観政要では、自分のお気に入りの人間や能力があると自分が判断した人の言うことばかり聞くことは、愚かな君主のすることだとしています。
1400年も昔のことですが、太宗は既に、多くの考えを取り入れることの重要さを認識しています。
家臣が意見を言えないような環境では、国がすぐに傾いてしまうことを指摘しており、いかに家臣が意見を言える環境を作るかに苦心しています。
現代では、あらゆる成功・失敗の事例から研究が可能です。
その結果、多様性を持った人たちの集団の方がよいアイデアが生まれることや、
現場の意見を幅広く取り入れる組織の方がうまくいくことは明らかです。
それでも、現代の多くのリーダーにはこれができません。
現場の意見を聞かずに、上層部の一部だけで判断するような組織は非常に多いように感じます。
太宗とその家臣は、広く意見を聞けるような環境作りにも工夫していました。
基本的に、職位が下の人間は、意見を言えないものだという前提で考えています。
具体的な策として、以下のような注意点を話し合っています。
- 下の人間の話を聞くときに、怖い顔、難しい顔をしない。
- 意見された内容について、欠点をいたずらに叱責しない。(諫言する人がいなくなってしまう)
- 家臣のメンバーは、ある特定の人だけを長期に登用しないで入れ替える。
現在の組織でも、部下の心理は基本的に変わりません。
いくら意見を出せと言われても、意見を言いづらいような雰囲気を出されたり、せっかく進言しても逆に怒られたりするのでは、部下は意見など言わなくなるでしょう。
また、同じ人が同じポストに留まり続けると、ついその人の意見が重要視される傾向にあるため、
プロジェクト毎にリーダーを変えたり、定期的に役割を変えたりすることも有効です。
そこまで工夫して、環境を作って、はじめて広く意見を収集できるようになるということです。
現在の組織でも、意見を言えるような環境ではない組織、もしくは言っても無駄だという空気が蔓延している組織は少なくないのではと思います。
現場が大事!
朕、深宮の中に居り、視聴遠きに及ぶ能わず。
委ねるところの者は、ただ都督、刺史にして、この輩は実に理乱の繋る(かかる)ところなり。
最もすべからく人を得べし。
訳
私は、宮殿にいるので、現場のことを理解しにくい状況にある。権限者として都督や刺史を派遣しているが、天下の安泰はこの人たちにかかっている。最も優秀な人を現場につける必要がある。
現場の重要さを理解している太宗の発言です。
天下の安泰は現場責任者の双肩にかかっており、最も優秀な人を派遣すべきとしています。
現場を無視した戦略や方針は、度々日本企業の問題として指摘されています。
それでもなお、現場を重視しない企業やリーダーが多いのが現状です。
現場が疲弊しきっているという光景は、多くの人が目にしているのではないでしょうか。
以前、私の好きな海外の番組で「Undercover Boss」というものがありました。
企業のトップが、バレないように変装して、新入社員に扮して現場に潜入し、現場の仕事を体感するというものです。
そこで、現場の大変さや、働く先輩社員(実際には自社の社員)の努力をはじめて知ることが多いのです。
最終的に、正体をバラして、社員たちはビックリ仰天。
トップは社員に日頃の努力を直接労い、特に素晴らしい社員には特別な報酬を与えたりといった趣向もあり、楽しい番組でした。
トップが現場を知ることで新しい発見もあるでしょう。
また、トップが重要視してくれることで、現場の士気が上がることは疑いようがありません。
無私無欲・人徳こそがリーダーの全て
林深ければ鳥棲み、水広ければ魚遊ぶ。仁義積もれば物自らこれに帰す。(仁義篇)
訳
林が深ければ鳥はたくさん来て、川が大きければ魚がたくさん来る。同じように、深い仁義をもって政治をすれば、人民は自然と忠誠を誓ってくれるものだ。
君多欲なればすなわち人苦しむ。朕が情を抑え欲を損し、己に剋ち自ら励む所以なるのみ。(務農篇)
訳
君主が、欲望のままに振舞っていては人民は苦しむだけだ。だから私は、自分の欲を抑え、自分に打ち勝ち、国のために励むのだ。
君主自ら私利私欲を抑え、人格形成に注力すれば、自然と人民はついてきてくれるというのが貞観政要における太宗の考えです。
まさに無私無欲、人徳の君主と呼べるでしょう。
リーダーが一番大変な思いをしていないと、部下は必死にやっているのが馬鹿らしく感じるようになります。
自分の立場に固執し、私利私欲にまみれているような上司では、部下は能力を発揮しません。
大変な思いは部下に任せて、楽をしているような上司は少なくありません。
人格ではなく、所与の役職で部下を従えようとするリーダーも大変多いです。
そんなリーダーのもとで生き生きと働けるはずはありません。
尊敬されるリーダーはいつの時代も、誰よりも苦労し、私利私欲を超えた大きな目的のために動いてきた人たちです。
人格で引っ張るリーダーはいつの時代でも必要です。
敢えて嫌いな人を採用する
古人の内挙には親を避けず、外挙には讎(しゅう)を避けざるは、挙ぐることその真賢を得るがための故なり。
ただよく挙用して才を得れば、これ子弟及び讎嫌(しゅうけん)有るものといえども、挙げざるを得ず。(公平篇)
訳
古人も、本当に有能な人であれば、親族でも仇敵でもどんどん登用すべきだと言っている。才能を発揮してくれるのであれば、親族であっても、仇敵であっても採用するべきだ。
先ほども書いた通り、太宗は、偏った意見ばかりを信じることを危険視しています。
Yesマンばかりを採用せず、能力本位で採用することの重要性を説いています。
仇敵、つまり嫌いな相手でも、才能を発揮できるのであれば、採用すべきという考えです。
日本の歴史の中でも、優れたリーダーとして知られる織田信長も、能力本位の人材登用を行ったのは有名です。
アメリカの元大統領であるリンカーンも、就任前に自分のことを無能であると過激に非難した人を登用して世間を驚かせました。
Yesマンを側に置いておくのは、よい気分なのかもしれません。
しかし、それの危険性に気づき、敢えて耳の痛いことを言ってくれる人を重用できるリーダーが、今の時代どれほどいるでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
時代は違えど、今の組織にも通用するリーダーの要諦を貞観政要から抽出して紹介してきました。
太宗がいかにして、中国史上最も安定した時代を築いたかを考えれば、これらのリーダーシップ論は、組織を運営するリーダーにとって不可欠な要素であることがわかります。
✅率先垂範が大前提、自ら動いて示す
✅社員の幸せを自分ごとのように考える
✅社員を育てて、思い切って任せる
✅広く意見を聞く、社員が意見を言いやすい環境を本気で整備する
✅現場が大事、トップが全てを把握できないことを認める
✅リーダーには高いレベルでの人徳が必要
✅自分を批判してくれる人を登用する
こうして見ると、今も昔も、東洋も西洋も、リーダーシップの要諦として書かれた名著には驚くほど同じ趣旨のことが書かれていると感じます。
字として読んでみれば、確かにその通りだと思うことばかりですが、実際に実行、実現できるリーダーは多くありません。
日本全体を閉塞感が覆っているような現在だからこそ、
真のリーダーシップを発揮して、周りの人、一人一人が能力を存分に発揮できるような影響を与えられる人が必要です。
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以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
なお、他のリーダーシップ論についての記事も書いておりますので、是非参考にしてみてください。
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